SWISS ARMY MAN(スイスアーミーマン)考察


SWISS ARMY MAN(スイスアーミーマン)という映画がすごく良かった。
好きすぎて何度も見返してるので自分の整理のためにここに書く。

本編見てないと意味不明です!ネタバレしかないのでご注意。
以下画像はhttps://www.youtube.com/watch?v=yrK1f4TsQfMからのものです。



<2025年5月追記:久しぶりに鑑賞し直したので、5年越しの感想を書きました>

























<個人的考察>


メニーは一体誰なのか?
ハンクがこれまで隠してきた思い(サラへの恋心、父との関係がうまくいってないけど大事に思ってることなど)を表した存在ではないかと思う。
あと、ハンクはただのゴミから人形やバスや映画など色んなものを作り出すことのできる、実は物作りの才能がすごい奴(作中では一切触れられないけど)な訳だが、その彼の才能を活かすのに必要な道具となる。
つまりハンクの隠してきた思いというのは、ハンクの良さを活かすのに大切なものでもある。


メニーはなぜ死体なのか?
ハンクがいつまでも思い続けているサラは、話したことさえない上に彼女はすでに既婚で子持ちだ。
ハンクの入る余地などなく、この恋はとっくに終わっており死んでいる。
だからハンクの思いの一部であるメニーは死体として登場する。


ハンクとメニーのキス
前夜のパーティーでハンクはメニーとキスをしようとして、しかしやめた。
死体にキスをするのはおかしい。男同士でキスをするのはおかしい。社会規範に反する行為だから、自分が気持ち良くてもそれを隠すことをハンクはずっとしてきた(ハンクだけでなく一般に人はそういう行為を隠す)。
だからメニーとキスをするということは、そうやって隠してきた自分の思いを肯定することの第一歩になったという意味だと思う(そして次項目の自己肯定につながる)。




なぜメニーは自分で動けるようになったのか?

この辺りの会話は映画の中で一番難しくてよくわからないけどざっくり言うと「メニーのことが好きだから死んでもまた会いたい」と愛を告げることで、
愛によってメニーが生き返った、という解釈をしてる(映画序盤では女性への愛で生き返ったが、今度はハンクからの愛によって生き返った)。
さらに言い換えるなら、メニー=ハンクの思いなので「ハンクは自分自身を愛してる(自己肯定)からもっと生きていたい」という意味でもあると思う。

ハンクの自己愛とメニーへの愛でメニーは生き返り、そしてメニーはハンクを助けた……のだと思う。
いやもう本当に都合のいい解釈かもしれないけれど。





映画のラスト
ざっくり言うと、メニー(ハンクが周囲の目を気にして隠してきた思い)はゴミのように捨てられるのではなく広大な海へと旅立っていき、ハンクはもう周りの視線に負けずに生きていくと宣言した、ということだろう。

最初街へ戻ったハンクは父親にも声をかけられず身を隠し、メニーもゴミのように処理される(序盤とクマのシーンでも話していた)ことになり、サラの隠し撮り写真も当人に見られてしまう最悪の状況になる。

けれどそこから流れるようにハンクの反抗が続く。
父親の口癖に「やめてくれ」と言い、サラに自分の気持ちをサッと伝え、メニーを奪還した。
サラや警官、父親から侮蔑の表情を向けられても、ハンクは人前でオナラをしてメニーに自分の決意を示した。

この一連のシーン、いやもうハンクはがんばったよ!!(泣!
確かに普通の視点からしたらハンクのやってることはひたすらキモいだけなんだけど(サラへのストーカー行為、死体を友達みたいに話す、オナラをする)、これまで見てきた観客側からすると、ハンクを救ってあげてくれ!とひたすら祈ってた。


そして実際、メニーがオナラで海へと旅立つことでハンクにとってはハッピーエンド……
というか、ハンクが新しい思いで人生を生きていくスタートに立った、という終わり方なんだと思う。
それに対して不快感や意味がわからないという反応をサラ達はするけども、ハンクの父やサラの子供のクリシーは笑って見送る。
ハンクの新たなスタートは、不快に受け取られるだけでなく笑って受け入れてくれる人もいる(しかもそれが不仲だった父親)という、希望のある締めくくりだと感じた。





<いろいろ感想>



・映像の色合いがひたすら美しい!
なにより印象に残ったのは青緑の美しさ。メニーのイメージカラーに始まり、山に捨てられていたゴミ、森の木々や海の色まで美しい青緑で描かれる。映画館で観たかった……
赤=ハンク、青緑=メニー、黄色=サラ を表す色構成にしてて、それで解釈すると細かい画まで意味があったりする。



・音楽がすごく良い!
初めて洋画のサントラ買った。遭難したふたりが頭の中で流してる音楽、というテーマらしいので楽器の使用はほとんどなく口でいろんな音を表現して重ねたり手拍子や太鼓など原始的なものを組み合わせているのだが……なんでこんなに素敵なんだ。
映像とのシンクロもすごく良い。初めて実写映画のBlue-ray買った。




・一番最初に観た時はめっちゃ笑った。あのハリーポッターが尻を出して放屁噴射で海を渡るとかそんなことしていいの!?笑

・下ネタとか汚いネタが多いのに演出が上手いのか下品にならず、映画全体としてはとても哲学的で真面目ででもふざけてて美しい映画だったと思う。

・遭難してるのに落ちてるゴミからいろんなものを作り出して活き活きして楽しんでるふたりがすごく良い。パーティーの時間は最高だった。あの時間がずっと続けばよかったのに……

・ハンクが作ったバスの中でメニーがバスの外の景色を眺めるシーンや、サラ(の格好をしたハンク)がバスに乗りこんでお金を払うシーンがすごく良い……大好き

・サラの曲がジュラシックパークなのは、ハンクにとって女性は恐竜のように憧れだけど、恐竜のように恐ろしい存在だからなんだろう。





・ハンクが森の中で作っていたものはサラのインスタ写真の再現で、メニーに自分を投影して(パーティーの時も自分の赤い服をメニーに着せている)疑似的にサラと恋人気分を味わっている、という普通にストーカー的な相当キモい行動なんだよね……しかも最終的にはサラ本人にもバレてしまう。
このキモさは弁護できない程だけど、だからこそハンクは隠していた訳だしこの一連の騒動の後ハンクは自分の失恋を受け入れた(メニーの大泣きは失恋を認めたことを表す)のだから、メニーのように「みんなちょっとずつ醜いんだ、気にしないよ!」って言ってあげたい……




ハンクがたどりついた境地に、いつか自分も到りたいなあと思いました。







<そのほか>


・youtubeに主演ふたりのインタビュー動画がけっこうあるんだけど、何言ってっかサッパリだぞ!
Oh, English……
とはいえyoutubeの英語字幕すごい!精度良い!ちょっとわかった気になれる

・インタビューで映画の深いテーマについてふたりが一生懸命話してるので(多分)、もっと知りたかったらインタビューをちゃんと聞いてみると良さそうだなあと思います。
Ah, English……


しかしポール・ダノとダニエル・ラドクリフのふたりが喋ってる姿、超可愛い……尊い……





<2025年5月 追記>

先日疲れていた時に、ふとスイスアーミーマンのサントラを聴いたらなんだかたまらなくなって、久しぶりに鑑賞しました。
美しい色合いの映像、胸にくる音楽、画作りの上手さ、ハンクとメニーの「生きること」の会話……やっぱり大好きな映画だなあと感じました。



5年ぶりに観たことで新たに気付くことが多かったので、以下書き留めておきます。
相変わらず勝手な考察&ただの感想です。



・今回改めて観ることで、「メニー=ハンク」と言っていいくらい、メニーの思いはそのままハンクの思いなんだと感じた。
そんなメニーとの交流は、ハンクにとって対話療法のようなものだったのかもしれない。
どうにもならないサラへの思いについて、自身の思いとしてではなく、メニーという相手のものとして対話する。そのことでやっと自分の思いと向き合えるようになった。
そしてその恋が無残に終わろうと、自分の中にある「生きようとする思い」を認めることで、ハンクは前へ進めるようになったのだと思う。


・メニーはサラと対面するなり自分を醜いと言い出し、「好きだったなんてサラに言うなよ」と告げて死体に戻ってしまう。
これも全部、ハンクの心の中にある正直な思いだろう。
だって話したことすらない既婚者相手に、言えるはずがない。そんな思いは最初からなかったことにしようとしたくもなるだろう。

しかしラストのハンクの凄いところは、それでも自分の思いに正直になると決めたこと。
スマホを見られ全てがバレてしまい、ハンクをキモそうに見るサラに対して、「本当にごめん。君は楽しそうで、僕は孤独だったから」と告げるハンク。
自分に嘘をつかない言い方でありつつ、サラに対しても誠実で……。ラストのハンクは本当に凄いし憧れるよ……!(泣)



・メニーの道具としての力は、ハンクの持つ「生きる力」なのかなと思った。
ハンクは手先が器用で、色んなものを作り出す力がある。実際、孤島でひとりきりでも生き抜いてきた。
クマと遭遇したシーンで「生きようとする思いがいつも心の中にある」と語っていたのが印象的だった。
恋が終わって死のうとしていた時にさえ、「脳が作り出す生きたいという思い」がハンクにはずっとあった。

・物語が終わった先も、ハンクは生きていける、きっと大丈夫だろうと思えた。
海へ旅立つメニーを、そしてそれを笑顔で見送るハンクのことも、5年経った今は安心して見届けることができました。私もこの5年の間に、少しは変われた気がする……





https://www.youtube.com/watch?v=WRPL89rbrAw

・スイスアーミーマンと同じダニエルズ監督の作品、エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(エブエブ)。
日本で公開された2023年に劇場で観たとき、あまりにも凄くて衝撃だった。このスイスアーミーマンの先にある作品だと感じた。

・そして、その作品がアカデミー賞をとったということも、私にとってはまた別の衝撃があった。
スイスアーミーマンとエブエブで扱われるテーマや疑問は、私自身が抱く人生の疑問みたいなものに似ていると思ってる。しかしそんな話は、周りの誰にとっても価値がなく、当然自分一人で抱えていくものだと思っていた(だからこそスイスアーミーマンは自分にとって親しく大切な映画になった)
……なのに、そのテーマをさらにマルチバースの視点にまで拡げて突き抜けた作品がアカデミー賞をとった。それが個人的にとても感慨深く感じた。

でも賞をとったのもそりゃそうだと思える、本当に凄い作品だった。最高にふざけてて、突き抜けまくってた。「良い映画」とかそんなレベルじゃなくて、映画館で観たとき圧倒されちゃった……(その感想を書くと長すぎるのでここには書かないけど)



劇場で買ったエブエブパンフレット

・エブエブのパンフレットの監督インタビューで、スイスアーミーマンのこともさらっと触れていて、それがとても腑に落ちるものだった。以下引用。

(若い頃『闇落ち』してた時)どうしていいかわからなかった。

僕が長い間閉じ込められていた闇を、この映画や『スイスアーミーマン』で描いた。そんな闇から僕を救ってくれたのは、映画と妻だ。
『スイスアーミーマン』と『エブエブ』は、闇に光をもたらす人を見つける物語だ。

スイスアーミーマンって、すっごいふざけてるように見えて(ダニエル・ラドクリフの放屁映画て 笑)、闇の中にいる人間が光を見つける過程を描いた、哲学的で誠実な物語なんですよね……
そしてそのふざけ(オナラ)もテーマにとって大事な行為になるという。
ちなみに私はスイスアーミーマンで、オナラが英語で「fart(ファート)」というのを学びました 笑

アカデミー賞受賞監督の作品として、スイスアーミーマンがどこかでリバイバル上映されないだろうか……と、ひそかに願ってたりする。
なんならエブエブとセットで、「ダニエルズ監督作品上映会」とかあったらいいのにな〜(国内だったらどこの劇場だろうと駆けつける勢いだよ!笑)